飛ぶ夢をしばらく見ない



原作:山田太一
細川俊之 石田えり
脚本、監督:須川栄三

 れはなかなかいいです。細川俊之の演技のすばらしさ、石田えりの美しさ、わかりやすい映像、どれが欠けても成立しなかった作品でしょう。老婆から日毎に若返っていく女を愛する男の物語なんて、映像化しようとすれば大変な苦労を強いられるのは目に見えている。それを絶妙のバランスでまとめてしまったのだから大したものです。この手の大人ファンタジーで陥りがちなのが、やたらと特殊効果を使うことなのですが、この作品の中では特殊効果といえるものがない。それでいて観客をぐいぐいと物語の中へ引き込んでいってしまう。「もしかしたら自分の身にもこんな事が起こるかも知れない。」とふと思ってしまう。
 生を投げてしまったような男(細川俊之)が病院で同室になってしまった女性とついたてを隔てて対話するシーンからが本筋の始まり。女性は腰の骨を折り、男は足の骨を折っているため、2人とも動けない。ところが女は今まで思うままに生きられなかった自分の人生の中で一つぐらい夫を裏切るようなことをしてみたいと言い始める。「私を犯してください。」ついたてを隔てて言葉だけで関係を持つ2人(テレフォン・セックスみたい)。ついつい想像の映像などを挿入してしまいがちな場面だが、ここをベッドに横たわる男の姿だけ、女は声だけという状態でカメラの動きや2人の言葉のやり取りだけで表現してしまう。特別に凝った撮り方をするわけではないが、かえってわかりやすくて効果的。若返っていく女を演じる石田えりも素晴らしい。なんと十代の娘までその声のトーンや素振りを変えて演じている。ストーリーにも中だるみはなく、よいテンポで進んでいく。ラストは意外な結末というタイプではないが、先が読めすぎてつまらないということにはならない。
 したときの寂しい気持ちを思い出してしまう大人のファンタジー。見ないと損をする一本です。
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