Cold Fever


監督:Fridrik Thor Fridriksson
主演:永瀬正敏

 承転結のある物語と違うこの手の作品は、退屈させずにみせるのがとてつもなく難しいものなのだが、Fridrik Thor Fridrikssonと永瀬の組み合わせは退屈と言われかねないストーリーを、見事にまとめてしまった。ストーリーは本当に数行で表現できてしまうほど単純だ。永瀬の演じる若いエリートサラリーマンが不慮の事故で死んだ両親の供養をするために事故から七年振りにアイスランドへと向かう。その旅の途中、彼はさまざまな人と出会い、さまざまな出来事に遭遇する。ただそれだけのストーリーだ。こんなものをどうやって映画として成立させるんだ?と言いたくなるところだが、観たあとでも何といっていいのかわからない。だが、不思議なことに不満を感じない。映像で語る部分の多いこういったタイプの映画を文章で説明するのは難しいことだ。最終的には「観てください。」と言うしかなくなってしまうのだが、この映画で一体何の変化が観るもののなかに起こるのかを観客の立場で書くのが一番妥当だろうと思う。

 論から先に言おう。この映画を観て、私はアイスランドに行きたくなってしまった。旅行嫌いの出不精な私がそんなことを考えるなんて思ってもいなかったのだが、この作品を観たあとの私のなかでアイスランドに行きたいという思いはだんだんと宗教じみたものになってきている。観てからまだ三日なのだが、この映画は後で効いてくる。もはやアイスランドに行きたいではすまされない、アイスランドに行かなくてはならない、否、アイスランドが俺を呼んでいると思うほどなのだ。どこがそんなによかったかなどという質問には「わからない。」と答えるしかない。サブリミナルでも使っているのだろうかと思うほどに洗脳されてしまっている。すべての映像が印象的だったわけではない。別にアイスランドの美しい風景が山ほど出てくるというわけでもない、役者がみんなうまかったとか、そういうわけでもない。もちろん美しい映像は多かったし、遭遇する出来事のなかに面白いものもあった。日本のシーンではテレビ画面と同じ大きさで画面を構成し、アイスランドのシーンからはシネマサイズになるというのもなかなか効果的であったし。途中で出会う葬式コレクターや東洋人をばかにした典型的なアメリカの馬鹿カップル。エンジントラブルで動けないシーンで登場する妖精など、ここぞというところでストーリーにメリハリをつけるあたりはさすがだ。しかし、そういう一部分を取り出してどうのこうの言うことにはあまり意味がない。ラストは別にドラマティックでも何でもない。泣けてくるとか主人公になり切ってしまうとかいうようなそういう単純な感情への訴えかけもない。だから一体自分のどこに浸み込んでくるのだかわからないのだが、静かに、しかし確実に自分の内側に共鳴するものがあるのだ。

イスランドに行こう。(金があったら)
メールはこちらへ
ご意見ご感想アンケートへ

ビデオの目次に戻る