Black Jack

監督:小中 和哉

脚本:橋本 以蔵

ブラック・ジャック:隆 大介

辰巳:香川 照之

本間 丈太郎:藤岡 弘

 は以前から小中和哉の作品には感心していた。初めて彼の作品を見たのは高校生の頃、大島弓子 原作の「四月怪談」だった。登場人物のキャラクターを演じきれなくてはとても成立しない人間ドラマ(月並みなジャンル分け)を主に手がける彼は、ファンタジー作品の中でも特撮を使ったリアリティーにこだわるのではなく、役者を使ったリアリティーと共感にその特色を持つ。非現実である映像世界の中のリアリティーと現実との違いをよく認識した上でなくては、役者の演技が上滑りになってしまったりそっけなく映ったりするものだが、彼はそこに一つの世界を創り上げてしまう事によって現実と虚構を繋ぐ(越えているのかも知れない)もう一つの真実を浮かび上がらせる。そうなってしまうと切断した腕の造形技術が稚拙なのもセットの汚れ方がいかにも人工的であるのも大して気にならなくなってしまう。

 回の作品中では辰巳を演じた香川照之が見事にストーリーの流れをまとめた。多彩なブラックジャックの横顔に翻弄されて方向性を見失ってしまいそうなストーリーを、情熱あふれる新米医師の辰巳の目を通して語ることで中弛れもなくラストシーンまで一気に見せてしまう見事さに拍手である。また、ビデオのパッケージを見たときにはブラックジャックのイメージからかけ離れていると思った隆大介ももうこの人以外には考えられないと思えるぐらいの演技を見せてくれた。劇中を通して遺憾なく発揮された脚本の構成力。そして、それら虚構世界の住人達が呼吸する空気を創造する数少ない監督のうちの一人である小中和哉はまさにこの世界の創造主となり得ている。これから続くこのシリーズ、また、私の楽しみが増えそうだ。


メールはこちらです
ご意見ご感想アンケートへ

ビデオ紹介のページに戻ります