「ベトナム戦争中にかつての友人だったベトナム人に出会っちまった、それも戦場でドンパチやっている最中にだ。」
お互いに向き合って思わず銃を構えたら、実はベトナム人の友達で、しばらく銃を構えたままだった。なんだか妙な具合になったもんでお互い動けないままでいたらしい。
どちらからともなく
「おい、俺を撃つのかよ。」
「いいや、撃つ気はないんだがな。」
「ばかばかしい、やめようぜ。」
ってな話しで二人で頭をかきかき、肩を組んで大笑いしたそうだ。
お互い妙な状況になってしまって、笑いをこらえていたらしい。その上戦闘が静まる頃には二人で酒を飲んでいたとか…。オイオイ本当かよってな話だが、でかい腹をゆすってヤンキースを応援しながら、そんな話をするラリーはとっても愉しそうだ。
「もし戦闘が始まったらどうする?それも相手が俺の息子の部隊だったら?」
ちょっと真剣な顔でラリーが聞く。奥さんのフランシスが咎めるように目配せをしている。
「そうだな、誰を殺すのも殺されるのもいやだから、戦闘が始まったら静かになるまでどこかに隠れておこう、で、終わった頃に出てくることにするよ。」
「ワーッハッハッハッハー、それが一番だ!」
こういう時の笑い声ときたら、部屋の壁が抜けそうなほどだっていうのがラリーだ。
金曜日にトラックを手配してもらえるように頼みにきたら、こんな具合でビールを飲みながらテレビで野球観戦となった火曜日の晩の出来事だ。この日ヤンキースは貴重な勝星を上げ、ラリーもフランシスもそして僕も大歓声を上げて喜んだ。
この気のいい夫婦がこれから住みはじめる新しいアパートのお向かいさんになる。わけわかんないうちに、えらく気に入られてる。