お買いもの


 て、生活が始まったらお買い物をしなくてはならない。さっさと身の回りの品をそろえて快適に暮らしたいもんだが、ここで色々と後悔するような出来事にあうというのは、もうニューヨーク・ビギナーの参入儀式とでもいうもの。

 かし、たとえぼられた金額が小さくても、なんか精神的なダメージはけっこう後をひくもので、特に来たばかりで精神的に不安定なときにこういう状態になると、関係のないところにも影響したりするしね。で、初心者のための買い物講座というわけだ。

 ず、旅行ガイドブックにあるような「ねぎる」買い物はできないと思っておこう。個人経営の小さな店で電気製品を買ったりカメラを買ったりするのは特によくない。よく

「値切って半額にしてやった。」

などと豪語する者がいるが、あれも当てにはならない。大体半額に値切っても、それでも定価の3〜4倍の値段だったりする。ぼられる手口のパターンは大体次のとおりだ。



 くいう私もやってきてから3か月の間に1度だけひっかかったことがある。手口は2番目の

「附属品外し」。

 学の講義を録音しようと思って、録音機能のついたウォークマンを買いに行った時のことだ。まだどこで買い物をすればいいのかよくわからなかったので、ぶらついた後、42丁目の辺りの電気屋に入った。中東だかインド系だかよくわからない店主がカウンターのなかでニヤニヤしている。店員がへたな日本語でコンニチワなんて声をかけてくる。怪しい雰囲気のなかで、しかし、やはりそれまでの環境とは全く違う状況で私の判断力は鈍っていた。ぼられるのはいやだったので、もともとの値札が妥当な金額になっているものを選んだ。199ドルが交渉で145ドルになったので、いい買い物をしたと思って会計を済ませてしまったその直後、

「附属品はいらないのか?」

と店主。アダプターやバッテリーは別売りだというのだ。箱を開けた形跡があり、元からの附属品を取り出したのは明らかである。値段を聞いたらバッテリーが20ドルでアダプターは50ドルだという。そんな馬鹿な話があるかと返品しようとしたら、どうしても返品に応じようとしない。取り替えには応じるというのだが、ほかの品物は全部馬鹿みたいに高い値段がついている。仕方がないのでオールセットでまけさせて、合計金額190ドルで手を打った。

 屋に戻って説明書を読んでみると、やはり附属品は全部セットされているはずだったことが分かって、それからしばらくは気分が悪かった。幸いだったのは価格的にはそんなに被害を受けていないということで、大体定価どおり、量販店の価格の10ドル増しぐらいだった。

 私の知り合いは3番目の手口、

「高いオプション無理矢理付け加え」にひっかかった。

 いつがある日、一眼レフのカメラを買ってきた。で、自慢して言うことには、

「このカメラさあ、いくらやと思う?」(こいつはいつもこうして自慢するのだ)

「さあ?300ドルぐらいか?」

「普通はそれぐらいやけど、値切って120にしたんや、ええ買いもんやろ?」

珍しくまともな買い物をしているものだから感心したんだが、後がいけなかった。

「ただ、レンズとセットでないとこの値段にならんから、結局合計で500ドル使ったけど。」

アホか?そんなしょぼいレンズが380ドルもするわけないだろーが。本体の分をレンズでしっかりぼられているだけのことだ。しかし、彼もそのことは分かっているらしく、

「合計した金額は高いけど、そんなに悪い金額やないやろ?」

と同意を求めてきたので、妥当な金額だと思うと言ってやるとほっとしたようだった。安くする条件などは何度も確認して、現物をつかんでから金を払うことが大事だ。

 際のところ、どのぐらい出鱈目な金額を上乗せしているかというと、これが1番目の手口である

「値切らせておいてぬか喜び」。

 い物にもなれてきた頃のこと、久しぶりに怪しい店を選んではいってみた。どのぐらいむちゃくちゃな金額を付けているのか知りたくなったのである。店に足を踏み入れた途端に、妙ににこやかなクセにだけが笑っていない店員が近寄ってくる。

「Just looking(見てるだけだよ)」

と言ってもしつこくついて回る。こういう店はほとんど間違いなくボッタクリだ。で、見事な商品を見つけた。近くのスーパーで20ドルのリモコンがなんと250ドルの超特価だ。指差して、これはなんだと聞くと、いきなり頼みもしないのに半額にする。にやにや笑って完全に日本人を馬鹿にしているらしい。高過ぎるからと言って帰ろうとすると、慌てて店主と相談するような振りをして、さらに値段を下げる。68ドルにしてやると、いかにも精一杯という顔つきで言う。それでも首を振ると、今度はうんざりしたような顔をして、いくらだったら買うのかと聞いてくるので、どこそこのスーパーでは20ドルのものがなんでここでは250ドルなんだ?と大声で言ったら、他の客も聞いていたものだから奴等は大慌てだった。こんなことがざらにあるのだから、半額値切ったぐらいで喜んではいけない。確実なところで買い物をしよう。

 気製品などに関しては、日本のビックカメラとか、ベスト電気にあたるものがあるので、そこで買うのがいい。WIZ とか TOPSというのがポピュラーだ。コンピューターならCOMPUSAあたりが妥当である。日用品などを売っている量販店は結構多いので、そんなに失敗はないだろうが、文房具ならSTAPLEというところが色々揃っていて便利だ。

 実性の低い値切りはやめることだ。その分の時間を節約したほうが利口だろう。


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