そうして気に掛けていたらそいつからの手紙だ!よかった!遂に立ち直ったか!また以前のように話が出来たり、デートの真似事をしたり出来るのかも知れないと思って期待200パーセントで封を切った。
期待度と完成度は反比例するものだ。期待していないときに普通のミュージカルなんていうのを観ると、物凄く得した気分になるが、期待しているとそれと全くレベルのものを観ていても、裏切られたような気分になる。だから俺は滅多なことでは期待しない。人にも作品にも出来事にも基本的には期待しないのだ。
いつもなら2枚3枚とびっしり書き込んでくる奴なのに、便箋はたったの1枚きり。まあそういうものだろうと気にも止めずに読み進んでいって、真ん中あたりの一文で力が抜けた。
「ニュー・スキンを知っていますか?」
それがほとんど1年ぶりに友達に書いてくる内容か?俺の顔が札束になってしまったような気分だ。以前からの友人にものを売り付けるなんてのは俺には出来ない。俺が買ってくれと言わなくても、必要なものなら俺から買ってくれるだろうし、友人がなにかしていたら、なにかあったらそいつのところで買ってやろうと思うものだ。たった一行書くだけでいいじゃないか、
「今、ニュー・スキンやってて、やりがいのある仕事だから頑張ってます。」
って、それだけ書いてりゃ十分だよ。友達だったら協力してやりたいと思うのが当然なんだから、わざわざ、
「絶対興味を持ちそうだから。」
なんて書いて欲しくはなかったな。友達の領分を超えて、友達の持つ心理的な強制力だけでなにか買ってやったり、ましてやネットワーク・ビジネスとやらの仲間入りをする気はない。そんなことする余裕なんてないんだし。
それでもとりあえず電話してみた。国際電話はいまだに止ったままなので、外の店でテレホンカードを買う。このカードは10ドルで日本に27分間通話ができるという優れものなのだが、それでもその10ドルが痛い年の暮れである。
留守電が応答した。聞き慣れていた声になにか裏がありそうな気分がして、受話器の向こうがちょっと遠かった。
「手紙が届いたので連絡しておきます。」
なんて素っ気ないメッセージ残してしまったあとで、
「引越したから受け取ってないんだよ。」
っていう手もあったなと、便箋に貼られたプリクラを見ながらぼんやりと考えていた。